難病医療費受給者証とは
難病医療費受給者証(特定医療費受給者証) は、指定難病の患者が医療費の助成を受けられる制度です。
厚生労働省が定めた 「指定難病」338疾患(2025年現在) が対象となります。
受給者証があると、医療費の自己負担上限額が決まり、長期的な治療費の負担が軽減されます。
対象となるのはどんな人?
以下の2つを満たす人が対象です。
① 指定難病に該当している
例:
- 胆道閉鎖症
- 原発性硬化性胆管炎(PSC)
- 原発性胆汁性胆管炎(PBC)
- 自己免疫性肝炎(AIH)
- ウイルソン病
- 門脈圧亢進症
- 肝硬変関連疾患(一部条件あり)
- 小児慢性肝疾患(小児の別制度対象)
② 重症度基準を満たす(または軽症高額該当)
重症度基準とは、病気の進行度・治療の必要性などを客観的に判断する基準です。
次章で詳しく説明します。
肝疾患における重症度基準
肝疾患は、病態により基準が異なります。
以下は厚生労働省の公式基準をもとにした主要ポイントです。
【1】胆道閉鎖症(指定難病 58)
胆道閉鎖症は指定難病のため、原則として次のいずれかに該当すると医療費助成の対象になります。
● 重症度基準
- 葛西手術後の継続的な医療管理が必要
- 肝機能障害(AST・ALT・ビリルビン値の慢性的上昇)
- 門脈圧亢進症状(食道静脈瘤・脾腫・血小板減少など)
- 肝移植後の免疫抑制剤管理
- 新生児期からの長期経過で合併症のリスクを抱える状態
※胆道閉鎖症は重症度基準を広く認める傾向があり、移植後も対象になります。
【2】原発性硬化性胆管炎(PSC:指定難病 69)
● 重症度基準例
- ALT・AST・γ-GTP の慢性的高値
- 総ビリルビンの上昇
- 進行性胆管狭窄
- かゆみ・胆管炎の反復
- 肝硬変への移行
- 移植適応または移植後管理
【3】原発性胆汁性胆管炎(PBC:指定難病 67)
● 重症度基準例
- ALP や γ-GTP の持続的高値
- AMA陽性 などの診断基準
- ビリルビン上昇(2.0mg/dL 以上など)
- 経過中の肝硬変・門脈圧亢進症
- 肝移植後
【4】自己免疫性肝炎(AIH:指定難病 63)
● 重症度基準例
- AST・ALT の高度上昇または慢性持続
- γ-グロブリン上昇
- IgG高値
- 組織学的肝炎
- ステロイド長期管理
- 肝硬変へ移行した状態
【5】肝硬変・肝不全関連疾患(指定難病に該当するもの)
肝硬変それ自体は「指定難病」ではありません。
しかし、原因疾患が指定難病の場合(例:PSC由来肝硬変、PBC由来肝硬変)は対象です。
● 重症度基準例
- Child-Pugh B 以上
- 反復する腹水
- 食道・胃静脈瘤
- 高度の血小板減少(門脈圧亢進)
- ビリルビン上昇
- 脳症の出現
- 肝移植後
【6】肝移植後(原因が指定難病の場合は助成対象)
● 重症度基準
- 免疫抑制剤の継続投与
- 感染症リスクに対する医療管理
- 拒絶反応の監視
- 定期的な血液検査・画像評価が必要
多くの場合、移植後も継続して受給者証を保持できます。
軽症高額該当とは
重症度基準を満たさない場合でも、以下を満たせば助成対象になります。
● 「軽症高額該当」
- 医療費(保険適用分)が 直近12か月で合計33,330円以上 × 3回以上
※または自治体の定めによる。
肝疾患は通院検査や薬代がかさむため、軽症高額該当で対象になるケースも多いです。
受給者証を取得するための手続き(新規申請)
手順は以下の通り:
① 指定医に「臨床調査個人票」を作成してもらう
(胆道閉鎖症やPSCなども専用様式)
② 市区町村へ必要書類を提出
- 臨床調査個人票
- 申請書
- 健康保険証
- マイナンバー
- 所得情報
など
③ 都道府県の審査会による審査
提出された「臨床調査個人票」と申請内容をもとに、
- 指定難病の診断基準を満たしているか
- 重症度基準または軽症高額に該当するか
を専門委員会が確認します。
審査には1〜3か月程度かかることがあります。
④ 受給者証の交付
審査に通過すると、ご自宅へ 「特定医療費(指定難病)受給者証」 が郵送されます。
この受給者証を医療機関の窓口に提示することで、
その日から医療費助成が適用されます。
助成内容(1か月あたりの自己負担上限額)
上限額は所得により変動します。
| 区分 | 自己負担上限額の目安 |
|---|
| 低所得 | 0〜2,500円 |
| 一般所得 | 5,000〜20,000円 |
| 高所得 | 30,000円〜 |
※肝移植後で医療費が高額な場合でも上限額が適用されるため、大きな支援となります。
更新手続き(毎年必要)
- 受給者証は1年更新
- 臨床調査個人票を再度提出(肝疾患は検査データ必須)
- 更新期間を過ぎると助成が停止するので注意
難病医療費受給者証は、難病と共に生きる方々が治療を継続できるよう、国が整備した大切な支援制度です。
肝疾患、特に胆道閉鎖症や肝移植後の患者さんにとって、この制度は生活を支える重要な基盤となります。
当NPOとしても、患者さんとご家族が制度を正しく理解し、必要な支援を受けられるよう、今後も情報提供を続けてまいります。
本記事が、皆さまの安心につながる一助となれば幸いです。